■情熱大陸 2008年2月10日放送分
2月10日放送の毎日放送「情熱大陸」は偶然にも福田健二の物語だった。2005年にスポーツライターの小宮良之氏が雑誌Numberで発表した「遺書」という記事で、福田の生い立ちなどを紹介して以降、福田を見る目がいろいろな意味で変わったサッカーファンも多かったのではないかと思っている。かくいう僕自身もそうだった。
ただ、だからと言って福田を盲目的に応援するのかといえば、必ずしもそういうわけでもない。福田健二というサッカー選手が凄いと思っているのは事実で、自分が過ごしてきた人生で、最も大きな一部分を占めているスペインという国の、自分が愛するクラブと同じリーグで戦っているということからも妙な親近感を勝手に持っているのも事実だけれど、それらの事由だけで彼を無条件で応援しようというわけではない。
偶然なのかそうでないのかはわからないけれど、現在販売されている雑誌Numberでは、福田のインタビュー記事も掲載されていて、その中で福田はカステジョン、ヌマンシア、ラス・パルマスと既にスペインのクラブを3つ渡り歩いている「実績」の秘訣の一つとして「言葉」を挙げている。つまり、スペイン語を話せることがスペインで生き抜いているポイントの一つであると。
福田は2003年12月にベガルタ仙台からパラグアイのグアラニにレンタル移籍。2004年シーズンをグアラニでプレーした後、2005年シーズンはメキシコのパチューカ、イラプアトで過ごし、その後セグンダAのカステジョンにレンタル移籍。後半戦の17試合に出場して2得点を挙げ、翌2006-2007シーズンはヌマンシアに再度レンタル移籍し、丸々1シーズンをヌマンシアでプレーし39試合で10得点。ヌマンシアは翌シーズン、つまり今シーズン本格的に昇格を狙うため、福田の完全移籍を目指したが仙台側が要求した移籍金がヌマンシアの考える一人の選手獲得にかけられる予算をオーバーしていた関係で実現できず、ヌマンシア側は2007年12月の福田と仙台の契約切れを狙って移籍金フリーでの獲得を目指す方向性に切り替えた。ところが、急転直下、カナリアス諸島グラン・カナリアに本拠を持つラス・パルマスが完全移籍で福田を獲得。福田は連続して3シーズンをスペインで過ごす初めての日本人選手となった。
これまで、城彰二や西澤明訓、大久保嘉人がそれぞれバリャドリー、エスパニョール、マジョルカといずれもプリメーラのクラブに所属してきたが、言葉は悪いが大した結果も残せず、日本に帰国している。
特に城、西澤の時には自分自身がスペインに住んでいて、城に至っては数ヶ月ズレてはいるものの同じ街に住んでいたこともあり、日本のマスコミや女性ファンの異常な行動を僕自身も揶揄されたりしたものだった。
城はマスコミの取材に対し、「あなたが一番好きなスペイン語は?」という問いに「Tira!(シュート撃て!)です」と答え、記者達の失笑を買ったり、西澤もエスパニョールの番記者に「Buenos dias(=おはよう)」と声をかけたら翌日のSport(バルセローナ本社のスポーツ紙)に「アキノリ、ついにスペイン語を喋る!!」などと驚きをもって報じられるなど、イメージとして「日本人はスペイン語など話せない、話せるようにならない、話そうという努力をしない」というものが刷り込まれていた。
そんな中でやってきた福田健二である。Wikipediaにも紹介されているが、ヌマンシアには以前韓国代表の李天秀が所属しており、全く使えないまま韓国に帰国しているためかなり懐疑的な視線を向けられていたらしいが、蓋を開けてみれば普通に言葉が通じ会話ができるというだけで大分見方も違ったことだろう。
Numberの記事中でも福田が口にしているけれど、「サッカー選手なんだからサッカーだけしていれば文句は無いだろう」では通用しない部分がある。彼の言うとおり、練習中の2〜3時間、試合中の2時間以外はサッカーは関係ない。街に出れば新聞、飲み物、食べ物、服、その他生活に必要な全てのものを手に入れようとすればスペイン語が喋れなければ何もできない。そこで「英語が通じないから不便だ」などという戯言は通用しない。なぜならスペインの公用語はカステジャーノ(標準スペイン語)であり、カタルーニャ語であり、バスク語であり、ガリシア語だからだ。英語が通用しないのは当たり前で、英語圏の人間が日本に来て、市役所に行って「どうして英語を話せるスタッフがいないんだ!」とクレームを付けることの愚かさを想像してみれば簡単に理解できるだろう。
福田がグアラニに移籍した当初、クラブから通訳を付けることを半ば強制的に否定され、何が何でもスペイン語を話せるようにならなければ何もできない状況だったことが、結果的に今の彼にとって大きなアドバンテージになっていることは間違いないだろうと思う。
とにかく、スペイン語圏の人間というのは人種に関係なく「スペイン語を話せる=意思疎通ができる」というだけで大抵の場合親近感を感じて心の壁をある程度まで下げてくれる傾向が強い。反対に、いつまでも喋れないままで、尚且つ話せるようになろうという姿勢すら見えない場合はそこで終わりである。どんなにサッカーが上手くても。ヨハン・クライフがあそこまでバルセローナの人間に愛される理由は、スペイン語だけでなくカタルーニャ語もある程度話そうとしたからだというのは有名な話だ。
中田英寿がイタリアであれほどの実績をあげられたのは、ほぼ完璧に近い状態までイタリア語を話せるようになったからだろう。同じことが福田にも言えるのかもしれない。
よく「サッカーに国境は無い」と言われるが、確かにサッカー自体に国境は無いし、ボール一つあれば誰でも一緒にプレーできる。しかし、サッカーに国境は無くても人と人の間には言葉と言う壁がある。特に明日どうなるかわからないようなプロの世界において、「多分パスが欲しいのだろう。恐らくは足元に」などと相手を想像するしかないような曖昧な相手にパスを出すよりも、「俺が縦に走る時には必ず浮き球のパスをよこせ」と明確に意思表示してくれる相手のほうにパスを出すのはごく自然なことだ。
中田をはじめ、高原、小野、中村といった選手達はほぼ例外なく現地の言葉をある程度マスターし、日常生活とプレー中の意思疎通ができるレベルはクリアしていた。ところが、スペインでプレーしてきたこれまでの日本人選手達は、個人的に知り合いでも何でもないから本当のところは知る由も無いとは言え、少なくともテレビや現地スペインの報道を見ている限りでは、とても日常生活レベルで通用するスペイン語を話せていたとは言い難い。
本当に極論になるけれど、僕は「だから実績を残せなかった」と思っている。実力的には十分通用するレベルではあったはずだ。城にしても西澤にしても大久保にしても、もっとやれたはずとは思うけれど、城はビクトルやカミネーロに「俺がボールを受けるからお前は裏に走れ。お前が裏に抜けたら俺は中央に回るからすぐにクロスを上げろ。俺が落とせばそこにカミネーロを走らせる。わかったかカミネーロ!」と言えただろうか。西澤はマルティン・ポッセやタムードに「とにかく俺にボールを預けてくれ。裏に抜けてくれれば必ずリターンを出すから。トレードのクロスには必ず俺が飛び込むから、お前らは逆サイドでこぼれ球を狙ってくれ」と主張できたのだろうか。恐らく、答えは否だろう。こんな主張ができていたなら背後に誰もいないフリーの状況で、自分に入ってきた楔のボールをボランチにダイレクトで戻すような無駄なプレーはしないだろう。
人はそれぞれが置かれた状況で、その状況を切り開いて生き抜いて行かなければならない。月並みな言い方だけれど、立ち止まることは許されず、立ち止まった瞬間に自分自身の可能性が潰えてしまう。そして、切り開くための能力やパーツを自然に身に付ける人、何が必要か気付いて身に付けようとする人、何が必要かわかっているのにただ待つだけの人、身に付ける方法がわからず立ち竦む人。様々な人がいるけれど、福田健二の場合は恐らく「身に付けざるを得ない状況に置かれて、尚且つ身に付けた人」ということになるのだろうと僕は思う。
ラス・パルマスの置かれた状況や彼自身の現在の状況からして、昨シーズンのような実績を残すのはクラブとしても個人としても難しいだろう。
でも僕は期待してしまう。彼が来シーズンもスペインにいて、セグンダAでもプリメーラでもどこでもいいからプレーし、相手や味方と怒鳴りあいながらゴール前で体を張り続ける姿を見られることを。
¡Venga,Kenji! ¡Mete la pelota a la portería!
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ぼくが現役の頃だって、パスをよこせと言わなければパスはこなかったわけだし。全員が神のような視野を持っているわけじゃないことをわかって呼び込まなければパスがこない。日本ではやっていたことがスペイン人なら、イタリア人なら言わなくてもわかるだろうというのは甘えでしかないでしょうね。
広山がパラグアイで成功したのも、福田がスペインで成功しつつあるのも言葉が話せたからでしょうし、もしかしたら稲本が干されているのはドイツ語が駄目だからかもしれません。
宮本が怪我をするまではレギュラーでアレックスが実力がありながら駄目だったのは言葉の問題かもしれないという目線もあるわけですね。
しかし、おっしゃるように言葉は大事ですね。
いや、最も大事かも、と思います。
サッカーはその場で決断して、
それを瞬時に実行しないといけませんし、
また、連携を取るためには普段からのコミュニケーションも
大事になるでしょうからね。
逆に、日本ではどうなんでしょう。
外国人が日本語を話すとすごい歓迎するので、
一見するとホスピタリティがありそうに見えますが、
でも、ほんとに話せないとなると、
やっぱり、スペインみたいな状況もあるのかもしれませんね。
実際には強豪国であればあるほど言葉のコミュニケーションは重要になる、というか当たり前のこととして行われているんでしょうけど。
誰だって何を言っているのかわからない、こちらの意図も伝わらない相手よりはわかる相手と一緒にやりたいでしょうしね。
チームメイトと打ち解けるのも言葉がわからなければ無理だし、ピッチを離れた生活の部分を考えると余計大事ですよね、言葉は。
日本だとスポーツ云々は関係なく、一所懸命英語を使って話してあげたりするケースは多いイメージはありますけど、本来努力すべき相手よりもこちらが無用な努力をしているケースもあるのかな、と…。どうでもいい相手ならともかく、仕事や学校で相手の母国語に合わせる必要は無い、というより日本語を話せるようにトレーニング相手になってあげるほうが相手のためだとは思いますけどね。いつもニコニコ笑っているけど、会話ができない人が近くにいたらちょっと困りものですしね。





